こんなときどうする?-学生編-
- 産業医科大学病院 血友病センター ナースコーディネーター 小野 織江 先生
- 産業医科大学病院 ソーシャルワーカー 野田 雅美 先生
- 監修: 産業医科大学 名誉教授 白幡 聡 先生
職業の選択と雇用主への病気の説明
高校3年生です。事務系の仕事で就職が決まりそうです。面接試験で病気のことを言うかどうかで、親と学校の先生とで意見が分かれました。学校の先生は「言わない」ことを勧めてくれました。右足首の関節に中等度の関節症がありますが、中学1年生から自己注射をしています。就職に際して、雇用主への病気の説明の必要性も含めてアドバイスをお願いします。
高純度で安全な凝固因子製剤が開発された現在では、定期補充療法や予備的補充療法を活用すれば、進行した重度の関節症がある場合やよほど怪我の危険性が高い仕事でない限り、いろいろな仕事に就くことが可能だと思います。事実、当血友病センターの患者さんも事務関係のほかに農業、電気工事業、歯科技工士、教師、介護士、食品卸業など様々な職種に就いています。
病名を雇用主に伝えるか否か
これまでの当センターでの経験からいうと多くの方が病名を言わずに就職していますが、そのことであとから問題になったことはないと聞いています。学校の先生が「就職試験の際に病名を告げずに受けよう」と言われているということは、あなたの健康状態が仕事に差し支えない状態であることを学校生活の中で判断されたのではないかと考えます。おそらく学校の先生も「血友病」という病名を聞かれた時は、学校生活で問題が起きないかと心配されたこともあったかもしれませんが、あなたと学校で一緒に過ごすことで病気自体が問題になることはほとんどないことを経験されたのでしょう。先生方から見て、病気のことを雇用主に伝えておかなければあなたに不利益が生じることが予測されるようであれば、「話したほうが良い」と勧めると思います。
就職前後の注意点・アドバイス
一般に、就職直後は生活環境が変わったり、何かと忙しく、健康管理がおろそかになりがちです。就職したからには出血で仕事を長く休むことのないように、体調管理・止血管理を今まで以上にしっかりしておきましょう。今後も足首の関節の状態を整えるために血友病の主治医から指導されている家庭療法の内容をきちんと守り、症状が悪化した時の適切な治療法(製剤輸注、リハビリ)や、足の負担を和らげる靴やサポーターなどのアドバイスを受けておくこともお勧めします。すでに働いている先輩方から、就職後に関節の調子が悪くなり、適切な輸注の方法やリハビリなどの指導を受けておくべきだったという反省談を耳にすることがあります。雇用主の福利厚生の条件によっては、入職後3ヵ月くらいが仮採用でその間、健康保険が交付されない場合もありますので2~3ヵ月分ほどの製剤をこれから少しずつストックしておくことも対策の一つです。
就職が決まったら、校則の許す範囲でアルバイトやボランティア活動などで社会に出る準備をしておくのも良いかもしれないですね。