99号(2021年12月発行)
Close Up あこがれの大人になるために。
血友病だからこそ起業へ
会社経営者として、留学生の夢の実現を後押し
志村洋一さん
血友病Aの重症型である志村洋一さんは、6年前、30代で会社を設立し、東京・新宿区に事務所を構えて外国人留学生の就労支援などに取り組んでいます。教員や宅地建物取引士などの国家資格を持ちながら、外国人留学生の支援を行うようになったきっかけ、会社を設立した理由、血友病患者としての思いをお聞きしました。
独立志向が強く、人の何倍も努力を重ねた20代
2歳くらいの頃、頭を打って出血が止まらなかったことがあり、病院を転々とした結果、血友病と診断されたと母から聞いています。母はポジティブな性格で、血友病だからといって運動などを厳しく制限することはなかったため、医師と相談の上、少年時代は野球やソフトボールなど自分の好きなことを楽しんでいました。
学生時代、アルバイト先の飲食店でスカウトされたことをきっかけに、大学卒業後は飲食業界の企業に入社しました。いずれ起業して独立したいと考えていましたので、新規参入でも実力次第で成功できる飲食業界に惹かれたのが入社の理由です。入社3ヵ月後に店舗責任者となり、その後、最年少で店長を務めました。
責任あるポジションに就いた後は、独立も見据えて、「人の3倍努力しよう」という決意で働きました。飲食物を乗せたトレーを片手に広い店内を何往復もするなどのハードワークで、当時は関節をずいぶんと痛めました。若かったから無理をしてしまったところもありますが、経験から多くのことを学べた時期だったと感じています。
会社を設立し、外国人留学生の就労を支援
独立するにあたって外食産業や不動産業での起業を考えましたが、現在は外国人採用のコンサルティングや外国人の人材紹介業を行っています。今でこそ、首都圏の飲食店やコンビニエンスストアで働く外国人留学生は珍しくありませんが、以前は今ほど多くありませんでした。アルバイト先を探している留学生と、人 手不足の業界を橋渡しする組織が少なかったのです。そこで、私は個人でコンサルティング業を営む傍ら、知人の会社を手伝う形で、留学生の就労支援を始めました。
最初は少人数の就労支援から始まりましたが、そのうち1日10~15人もの留学生から連絡が来るようになりました。面接に付き添ったり、電車の乗り方や銀行口座の作り方を教えたりといった就労先の紹介以外にも行っていたサポートが好評で、「困ったら志村さんに相談すればいい」と留学生の間で評判が広がっていたようです。
留学生にも企業にも人材紹介のニーズがあることがわかってきたため、知人の会社を手伝うのではなく、自ら人材紹介の会社を設立して、本格的に就労支援に乗り出すことにしました。以前、飲食業界にいた経験があるので、雇用する飲食業界側が留学生を雇うにあたってどのような不安や懸念があるのかを理解しています。そのため、私が仲介をすることで雇用者側の不安の解消を図り、留学生側に対しては面談や研修をしっかり行うことによって、お互いに言葉や文化の壁を越えるためのサポートをすることができました。
会社の設立以来、数多くの留学生をアルバイト先企業に紹介してきましたが、現在、積極的に取り組んでいるのが正社員としての就職先の紹介です。そのきっかけは、ある外国人男性が、日本の就職先で劣悪な環境で働いていたことでした。彼に会って話を聞いてみると、業務内容や勤務地が事前に知らされていた状況と異なっているなど、さまざまな問題があることがわかりました。私が仲介し、優良企業への転職を実現させたところ、とても感謝されました。
その後、彼のような事例は氷山の一角であり、ひどい労働環境で困っている外国人が少なくないことがわかりました。そこで、信頼できる企業に正社員として就職できるように外国人を支援するとともに、採用する企業側に対しても差別や偏見をもって彼らに接することがないようお願いしています。母国で借金をしてでも、日本で学んだり働いたりすることを夢見て来日する留学生が大勢います。そんな外国人の人生を変えることができ、同時に人材不足の業界に貢献できることがこの仕事の大きな醍醐昧ですね。
経営者になったのは、血友病だったから
若い頃から独立志向があったのは、血友病だったからだと思います。会社の経営者であれば、時間や経済面でのゆとりが得られると考えました。例えば、通院をする際も、自分で自由にスケジュールを立てることができれば、仕事の合間に病院に行きやすくなります。病気だからこそ、小さい頃から自分の身は自分で守らなければという意識が育ち、それが会社の設立にもつながったのだと考えています。
治療をしながらでも精力的に働くことができるよう、日頃から積極的に体を動かすようにしています。仕事柄、外出や出張が多いですが、自的地まで2kmくらいまでであればタクシーを使わずに歩くようにしています。関節症はありますが、階段をダッシュして登ることもありますし、趣味で筋力トレーニングもしています。エネルギッシュな見た目をしているせいか、スーツ姿で外来を受診すると、患者ではなく製薬会社の社員の訪間だと間違えられることもあります。
自分の性格には、幼い頃から母が私のやりたいことを制限することなく、普通の子どもと変わらない生活をさせてくれたことが影響していると思っています。子どもの頃から体を動かしていたので筋肉がついており、体力にも自信があります。たしかに関節症があり、関節の可動域も狭いですが、基礎的な体力があることは心強いと考えています。念のため、事務所には製剤を2本置いており、仕事の合間に注射したことも何回かありました。
選択肢を限定せず、自分の可能性を広げて
私は血友病に限らず、病気を個性だと考えています。病気であるという事実は変わりませんが、解釈を変えてポジティブに捉えることはできます。病気があることで日頃の体調管理に気を配るようになれば、病気がない場合より長生きできるかもしれませんし、悩んでいる人の力になるなど、病気だからこそできることもあると思っています。ですから、若い世代の方も、病気だからといって自分の選択肢を限定することなく、やりたいことにぜひ挑戦してみてほしいと思っています。保護者の立場であれば、少しハラハラするかもしれませんが、可能な限りサポートしながら見守ってあげてほしいですね。
子どもの頃、主治医からは「民間企業への就職は難しいだろうから公務員になるように」とアドバイスされ、教員免許も取りました。しかし私は今、自分が本当にやりたかった会社の経営をしています。決して、私が特別な人間だから夢を叶えられたわけではありません。正直な話をすると、私は薬の注射を面倒だと思ったり、痛いのが嫌で打ちた<ないと思ったりするような、ごく普通の人間です。「志村が特別だからできるんだろう」とは思わないでほしいのです。皆さんも自分がこうありたいと思う理想を大切にして、自分の可能性を広げてほしいと願っています。
- ※ 最適な治療法や製剤輸注量・輸注回数は、患者さんごとに異なります。ご自身の治療については、主治医と十分にご相談ください。
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