こんなときどうする?-成人編-
産業医科大学病院 血友病センター ナースコーディネーター 小野 織江 先生
産業医科大学病院 ソーシャルワーカー 野田 雅美 先生
監修:産業医科大学 名誉教授 白幡 聡 先生
溶解操作への戸惑い
65歳の血友病Aの患者です。幸いに出血がそれほど多くないので、製剤の注射はたまにしかしません。最近、注射の準備をしてくれていた家族が事情で離れたので全部自分ですることになりましたが、いざ、注射の準備をしてみると、以前と輸注セットは変わっていて、とても手間取りました。正しく準備できていたのか不安ですし、次にうまくできるか自信がありませんので、少しぐらいの出血は我慢しようかと思っています。
久しぶりにご自分で製剤を溶解しようとして、新しい輸注セットがうまく使いこなせず心細い思いをされましたね。最近の凝固因子製剤の輸注セットは、ごみをできるだけ減らすとともに、溶解操作の工程を少なくして、スピーディに準備できるものに改善されてきています。
しかし、初めて使う方にとっては、説明書を充分理解せずに溶解すると、失敗してしまうこともあり、せっかくの便利な道具も却って厄介なものになりますね。製剤を用意するのが億劫という理由で、出血した時に適切に輸注をしなければ、出血の程度によっては大変なことになるので、今のうちに是非もう一度おさらいをすることをお勧めします。正しい使用方法でお使いになると、とても便利でうまくできていることがわかると思います。製剤に添付されている文書に溶解方法が書かれていますが、読みづらかったりわかりにくいこともあると思います。その場合、製剤を処方してもらった医療機関の看護師・薬剤師・医師にお尋ねになるとよいでしょう。各製薬会社は、写真入りの大きな見やすい溶解操作のパンフレットや、練習用の模擬製剤などを用意してくれています。医療機関にない場合は各社から取り寄せてくれると思います。
本来は我々医療スタッフが、患者さん個々に指導したり使用後のモニタリングをして、お困りがないようにすべきなのですが、今回のようなご家族の事情を知る機会がなかったり、患者さんにお会いしてお困りのことをお聞きする時間がないと大事なことが伝わらない場合があります。特に血友病患者さんを多く診療している施設でない場合は、看護師も製剤を外来で溶解する機会がなかなかないこともあり、どの部分が患者さんにとって困ったのかすぐにはわからないこともありますので、患者さんのほうからご相談下さると、我々もとても助かります。
慢性疾患を抱えながら年齢を重ねることについての問題は血友病患者さん方にも決して例外のことではありません。これまで問題なくできていた日常の動作が困難になったり、いろいろな理由で家族から援助が受けられなくなったりすることが発生します。そうなってから孤立してしまうことは不安もさることながら危険もはらんでいます。今まで家族が製剤をとりに行くだけでご自身はほとんど受診しなかったようであれば、なおさら、かかっておられる医療機関との関係を見直し、受診をしてご自身が抱えておられる問題を一緒に考えてもらえる関係作りをしておくことが重要と思います。