こんなときどうする?−成人編−

産業医科大学病院 血友病センター ナースコーディネーター 小野 織江 先生
産業医科大学病院 ソーシャルワーカー 野田 雅美 先生
監修:産業医科大学 名誉教授 白幡 聡 先生

高齢になってからの在宅療養の不安

70歳の患者と同居している姉です。家庭輸注は本人しかできません。先日、大きな出血を起こして数日動けない状態が続きました。年寄りばかりの生活で、今後の弟の治療や生活のことを考えると不安になります。何か対策はないでしょうか?

高齢になってからの在宅療養の不安

中高年の血友病患者さんとご家族は、一般の高齢者の健康上の問題だけでなく、血友病関節症を含む出血に起因する問題も抱えておられ、日常生活の自立が困難な場合や、家族の支援体制が充分でない場合、不安を抱かれるのも無理はありません。

ご相談の70歳の患者さんの場合は65歳以上の方を対象とした「介護保険」を利用することができます。介護保険で受けられるサービスには訪問介護や訪問看護などがあります。

過去に我々の施設で、出血後に重い後遺症で寝たきりになった血友病患者さんの在宅ケアの支援を経験しました。この支援には訪問看護の力を借りましたが、ご家族が自宅で患者さんの介護をして充実した時を一緒にすごせたのは、訪問看護の力が大きかったと言われました。このケースでは、週2~3回の訪問看護で、検温・血圧測定などの健康状態のチェック、体を拭いたり、足浴、入浴、シーツ交換などの清潔介助、ベッドサイドのリハビリ、家族が注射できない時の定期輸注の援助、褥創予防の処置、お留守番、介護タクシーでの通院(有料)などの支援を訪問看護ステーションから受けました。具体的なサービス以外にも、介護の問題を一人で抱え込まなくてよい、ちょっとした相談や愚痴をこぼせる相手がいるということは何よりの大切な支えになったようです。ご相談のご家庭は高齢者ばかりの構成のようですから、これから先のことを考えると、訪問看護の活用は一つの資源になると思います。問題が深刻になる前に、日ごろ血友病で受診している病院のソーシャルワーカーや主治医、看護師に相談されて、訪問看護事業の内容や、経費の問題、手続きの方法、いくつか関連する訪問看護ステーションなどの情報を得て、概要を理解しておくとよいでしょう。訪問看護は、患者さんやご家族が希望し、主治医が必要と認めた上で訪問看護指示書が作成され、指示書に沿って援助が行われますが、基本的に訪問看護の申し込みは、患者さんやご家族と、訪問看護ステーションとの間で行います。気になる費用ですが、通院の付き添いや介護タクシーの使用など、一部自己負担が発生するものを除き、ほとんどのサービスが健康保険・特定疾病療養受療証・先天性血液凝固因子障害等治療研究事業の中でまかなわれます。実際に活用する段階になった時、例えばプライバシーの問題で、住所地の近隣地区の施設を活用するのがためらわれるなどの問題が出てくるかも知れませんので、病院の主治医・看護師・ソーシャルワーカーを交えて話し合いをすることが大事です。困っている状況を説明し、理解してもらえれば、きっと患者さんやご家族の力になってくれると思います。

医療福祉制度」にも情報が掲載されていますのでご参照ください。